
さて「にんじんごはん」の作り方は:
徳川無声が正岡容から聞いたところによると、次の手順で作るらしい(秋庭太郎『考證永井荷風』):
- エンガワの前の沓ぬぎ石に、煤けたコンロをおき、拾ってきた木片を燃やして、木炭を数個投げこみ、その上に煤けた土鍋をかける。
- それから一山いくらの野菜を、なにかに構わず、釜の蓋の上でサクサクと切り刻む。
- 刻んだやつを、(南京米や雑穀などと一緒に)一切合切中に入れて、グツグツ煮えたところを杓子でかき回す。そのきたならしく見えること言語道断だ。
- 正岡:「センセイ、そ、そ、そんなことして召し上がっては美味しくないでしょう?」
- 荷風:「正岡さん、今の世にいったい、ウマイというものがありますか?」
写真では結構おいしそうに見えるが、人によっては「言語道断」となる。面白い。
ともあれ「今の世にいったい、ウマイというものがありますか?」という荷風の言葉は、平成の世にも通用するのだろう。かつては美食家で知られ、東京の高級レストランを辛口批評で軒並みなぎ倒した天下の荷風の言葉である。重たい。今の世のグルメブームも、しょせん誰かに「ウマイ」と思いこまされて「タカイ」ものを食っているだけの話じゃないのか。
この本(永井荷風 ひとり暮らしの贅沢)は内容も写真もいい。写真のまるい軍用アルミ鍋は荷風の遺品。とっておきの未発表原稿(さる事情によって今後永遠に刊行されることはない)の抄も入っている。保存版。
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